2010年4月25日日曜日

外国人労働者。

ずず。


やあ、どうもどうも。
なんだかいろいろ、あれこれ思い出しますな。


まだあっしが小童の書生だった頃、学び舎の近くにあるとある牛飯屋で日銭稼ぎをしたことがありましてな。
夜の10時に入って、朝の7時まで、いわゆる深夜枠をさせて頂いたことがありんして。


そこの長、すなわち店長がまたあっしとなぜか同い年でしてな。
一方であっしは書生、一方でその方は店長で。
「おめえは○○(学び舎名)のくせに牛丼もつくれねえのか!」
この一言が忘れられませんね。
○○に入るための勉学にいそしみ続けてきたものですから、
牛丼どころか、目玉焼きさえろくに焼いたことはありませんでしてね。
はてどうしたものかと、返答に困った思い出がございます。


さてそこに。
同じ深夜枠で、とあるチャイナの方がいらっしゃいました。
名は仮に、ワンさんとしましょう。
そして早朝枠で、とあるコリアの方がいらっしゃいました。
名は仮に、パクさんとします。

このワンさんとパクさん、
労働に対するattitudeが何にせよ対照的なのが印象深かった。


深夜、一緒に入るワンさんは、どこかしらマイペースで。
カレーのルーが入った袋を、お湯から出して上へ下へとゆったりかえし。
混ぜ返したうえで、うどんの上にぶちまける。
彼なりに丁寧なのですね。

一方で、早朝のパクさんは、とにかく早い。が、慌しい。
たいして忙しくもない中なのに、がちゃがちゃと作業する。
そして笑顔、勢いもあり。


ワンさんは日本語がよくわからない。だからいろいろ曖昧な感じ。
パクさんはそこそこわかる。濁音のない日本語で、誰かと会話しているのを耳にしたことがあり。
どちらが長に気に入られるかは一目瞭然な。


そしてある日、長に「ビール缶あったんだけど、あれおまえ?」と突然。
いやそんなめっそうもねえ、あっしじゃねえっす、と慌てて答えまして。
「じゃあワンだな。朝来たらあったから、深夜のあいつだ」
とあたりをつけたようで。


深夜の休憩時間、
狭い倉庫の床に伸びるようにして寝ているワン氏を思い出したあっし。
そう言われてみればそんなことをする人なのかもしれないけど、
どうも腑に落ちない。


何が腑に落ちなかったって、
その決め付け方でありまして。
何だかどうも、はじめから「中国人はよお」とされているようで。
「あいつら働かねえから」とは、よく飲食店界隈では耳にしましたが。
何となく、その「あいつら」意識が、彼らをより働かなくさせているんじゃないかしらね、と考えた次第でもありんして。


結局そのビールは、韓国人のパクさんの仕業でありんした。


ふうん、と思いながらも、
パクさんはどんな顔して「それ僕ね」と言ったのだろう、
そのとき長はどんな顔をしたのだろう、
そんなことを思いやったまま、
その店からは足が遠のいてしまいました。


あっしはドンブリをふたあつ、こっそり持って帰り、
湯のみを一つ、先輩に差し上げました。


いわゆる偏見ってやつに、はじめて出くわしたんでしょうな。
だからこんなに覚えてるんだ。



13年ほど前のことですわ。


ずず。

2010年4月24日土曜日

秘書にまつわる。

ぷはあ。
おや、どうも。お元気でしたか。


いかがですか、一服。



いやね、今、昔やってた、どうにも馴染まなかった仕事について思い出していたのですよ。
ふう。


先方にもかなり迷惑かけましたがね。
あっしもどうにも耐えられんかったですわ。


秘書、ってやつです。


人の面倒を見るのは嫌いではないのですわ。
いやむしろ、好きといえるほうでしょうな。
ただ、あれです、
モチベーションによっては、見返りを求めてはならないもんなんです、そういった類のことは。
だから、あっしの場合、仕事にしてはいけなかったんですな。


仕事にすると、どうしても評価がつきまとう。
こちらは情からやったことでも、先方にすれば仕事だから当然なわけで。
常に、評価、の対象となってしまう。
その温度差に、徐々にめげていってしまい。
最後には何もする気が起きなくなってしまいましてね。


印鑑を買って来い、という指令に対し、
印鑑を探して一時間歩き回り、
ああこれは自分はあの部屋に戻りたくないんだなと自覚したとたん、
これ以上続けてはならない、と思い至りましたわ。


雇い主にもご迷惑かけたことかと。


いまだに気分が定まらないですわ、あの頃のことを思い出すと。


向いてない職種って、あるんですねえ。



ふう。

議員にまつわる。

ずずず。はあ。


おお、そうそう。
昔、変わった友人がありましてな。


町奴がまだ子奴だった頃の友人で、
これまたかぶいた者だったため少々けむたがられていたのだけど、
あっしとは妙に共通点があり。
あるときから、ごくたまにつるむことがありんした。


そやつは妙に「パワー」、すなわち権力にまつわるものが大好きで。
かつては自民党の某オールバック議員に惚れ込み、枕の下に新聞の切り抜きを入れて眠るような、
変わったお子でありんした。


確かそう、
その者からあるとき突然電話があり、アルバイトをやらないかと。
ひたすら新聞の切り抜きを採取し、コピーをとるという、いわば資料づくりの作業だと。


金を稼ぐのに困っていた私めは、一抹の不安を抱えながらも引き受けることに。
何が不安かって、それってまともなシゴトなんだろうか、という点において。


職場は議員の事務所兼私宅。
2階が事務所になっていて、1階および半地下が書庫と倉庫。
その半地下に日がな一日もぐりこみ、ひたすら新聞に目を通し、切り抜き、
コピーをとり、イシューごとにファイルに綴じる。
イシューは、「北朝鮮」「アメリカ」「中東」ならびに「福祉」「地方行政」などなど。
国際関係のものが多かった記憶が。


なんというか。
作業そのものはさほど嫌ではないのだが、
陰鬱な空気に一人浸されることで、まったくの鬱になる。
誰とも口をきかず、一人新聞を読み、切り抜き、台紙に貼り、コピーをとり、綴じる。



私の友人は、その議員の事務所で仕事をしていたが、
国会議員に当選したため、議員会館に移動することになった。
今なおそこにいるはず。
何せ、彼女自身が国会議員になることが夢だから。



もはや連絡をとりあってはいないけど、
彼女の権力欲がどういった形に実を結ぶのか。


傍観して楽しみたいと思いやす。


ああ、茶がうまい。

ベビーシッター。

どうも。町奴です。いかがですか、調子は。


そうそう、先月より、ベビーシッターを始めました。というか、紹介で突っ込まれました。
赤子を産んだことも育てたこともない私めに勤まるかどうか相当不安だったので、
尻込みしながら「いや週一くらいしか」「正直自信ないのでねえ」などと、できる限り先方から断って頂けるよう水を向けていたのですが、
どうにも人が見つからなかったり、保育園に入れなかったりしたらしく、
やむを得なしに、こちらにお鉢がずいずいとまわってまいりやした。


うへえ。
自信なし。


仕方ないので、初日の前に、身内の家にオムツ変えの練習へ。
子供とはいえ、立派なウンチ。
ウンチは、自分のだって好きではない。慣れなくてはな。


さて初日。
1歳半の子供と、おばあさまと、町奴との三人で、
一日を過ごす。
1歳半は、自立心旺盛で。
どうにか立ってやろう、歩いてやろうと必死であがく。
シッターはそのお手伝い。
手を出されたら補助要請、口をあけたら飲料の要求、
不快な顔はオムツ交換要請。



意外とわかるものだ。



というか、大人よりわかりやすくて助かる。
勘所を間違えなければ、付き合いやすいことこの上ない。


大人と子供の違い。
それは言葉と、運動能力、かと。


大人になるにつれ、さまざまな能力を獲得していくであろう子供。
(あ、まっとうな暮らしが営めればの話だが。)
能力を獲得するにつれ、人格的な何かが変化していく。


良いも悪いもない、それが成長というものだ。


人の子とはいえ、長い時間をすごすと、どんなものかがわかってくる。
彼らは素材であり、リアクターなのだ。
ある素材が、世に放り出され、さまざまな刺激に接し、それに対する反応をおこすことで思考や言葉を身につけながら、細胞分裂を繰り返し、成人になってゆく。
そして、やがて老い、死ぬ。
永遠に、その繰り返し。


一生の長さは人それぞれだし、誰にも把握しきれるものじゃない。
でもね、生まれたての子供と一緒にいると、さすがに自分はまったくもって彼らとは経てきた時間が違うということを痛く感じてしまうのでありんすよ。
大人としての自覚、ってものなんでしょうかねえ。


いや、本当に勉強になりんす。
一生かかっても得られないかも知れないことを、やつらはおしえてくれます。


だからもうちょっとね、がんばってみようかと思いましたですよ。
ええ。


幸せってえのは、本当にちっぽけなものかも知れませんでやすねえ。

派遣とやら。

どうも、町奴です。
今日はえらく良いお天気ですな。んむ、茶がんまい。


そういえば、かつて、派遣とやらに登録して、どうにか日銭を稼いで暮らしたことがありまして。
派遣に登録されたことのある方には馴染みでしょうが、
「倉庫での検品作業」というシゴトがあります。


寒い冬でありんしてね。半開きのシャッターから冷気が入り込む中、
できるだけ暖かい格好にエプロンをつけて、バリカンみたいな機械を持って出品前の衣服を細部に至るまでなでまわし、中に針が入っていないかどうか探す、という作業でありんした。


あっしはまだ学校出たてのペーペー。
まだ金を自分で稼ぐことの大変さの扉を開けたばかりでありんす。


とある、千葉の駅に行きまして。
心細い中、集合場所に向かいます。
男性やら女性やら、あちこちでぼんやりしている一角にたどり着き、
群れにそっと加わりまして。


どうにも不慣れで困りそうな気配がしたので、
女性二人に思い切って話しかけてみやした。
「すみません、私初めてなんで、よく勝手がわからず。何かあったら教えて頂けますか?」


…あ、ええ、はい、町奴は女です。


ぼんやりとこちらを見る目線。
一人はイヤホンを片方だけ耳からはずし、頷く。そしてまた耳へ。
もう一人はマルメンをふかしながら「はあ」。
このマルメンがエンドレス。のべつまくなし。


やがて昼休み。
女性二人にくっついて食堂へ。
イヤホン女性は、音楽を聴き続け、買ってきたマクドナルドの何たらセットを食す。
マルメン女性は、またマルメンを(当時はまだ禁煙ブームじゃなかった)。
さすがに気になったあっしはイヤホンに「何聞いてるんですか」と。
すると方耳だけはずして「ワンピース」。そしてまた戻す。
…お、もしや。
ああ、そっち方面。


するとマルメンが話しかけてきた。
「今まで、つきあった男と寝た男、どっちが多い?」


おお、おい、ちょっと待て。
どうした、何があったんだ?


我々は初対面で、しかも今は仮にも仕事の昼休み。
周りに人がわさわさいる食堂で、その話題のチョイスはいったい何だ、何なのだ?


ああ、酔った勢いとかもあるんで、まあ寝た男っすかねえと正直に答えると、
ああ、そう、やっぱそうだよねえ?と、自分が寝た男を指折り数えだすマルメン。
20人程度いらしたかと。
相変わらずエンドレスマルメン。
向かい側にはワンピース。




…ここはいったい何のワンダーランドだ?



ふとあたりを見回すと、よくわからないが、そういった類の方が多くいらしたような気がする。
他者との距離感がわからないのだ。
だから一人でいるか、過剰に仲のよいふりをしているか、よくわからないことをしているか。
ひたすらマスカラ談義をし続けている女子二人や、気が触れたかのような数のストラップを携帯につけている女性とか。
男性はたいがいジャンプやそこらの漫画雑誌を読んでる人が多かった(8年前くらい)。
今ならさしずめ携帯ゲームをされとるでしょうな。



あっしにとって「派遣」の第一印象たあ、そういった人種のるつぼ、ってことでやんしたねえ。
いや、まあね、これが全てじゃないんでしょうけど。
にしたって、ちょっと不思議な感じでしたよ。
作業自体は、寒いのを除けば、別に嫌じゃありませんでしたけどね。



あ、ほら、もうすぐ日が沈みます。
夕暮れの気配が、徐々に東から。


いろんな空があるように、いろんな方がおられますな。