ずず。
やあ、どうもどうも。
なんだかいろいろ、あれこれ思い出しますな。
まだあっしが小童の書生だった頃、学び舎の近くにあるとある牛飯屋で日銭稼ぎをしたことがありましてな。
夜の10時に入って、朝の7時まで、いわゆる深夜枠をさせて頂いたことがありんして。
そこの長、すなわち店長がまたあっしとなぜか同い年でしてな。
一方であっしは書生、一方でその方は店長で。
「おめえは○○(学び舎名)のくせに牛丼もつくれねえのか!」
この一言が忘れられませんね。
○○に入るための勉学にいそしみ続けてきたものですから、
牛丼どころか、目玉焼きさえろくに焼いたことはありませんでしてね。
はてどうしたものかと、返答に困った思い出がございます。
さてそこに。
同じ深夜枠で、とあるチャイナの方がいらっしゃいました。
名は仮に、ワンさんとしましょう。
そして早朝枠で、とあるコリアの方がいらっしゃいました。
名は仮に、パクさんとします。
このワンさんとパクさん、
労働に対するattitudeが何にせよ対照的なのが印象深かった。
深夜、一緒に入るワンさんは、どこかしらマイペースで。
カレーのルーが入った袋を、お湯から出して上へ下へとゆったりかえし。
混ぜ返したうえで、うどんの上にぶちまける。
彼なりに丁寧なのですね。
一方で、早朝のパクさんは、とにかく早い。が、慌しい。
たいして忙しくもない中なのに、がちゃがちゃと作業する。
そして笑顔、勢いもあり。
ワンさんは日本語がよくわからない。だからいろいろ曖昧な感じ。
パクさんはそこそこわかる。濁音のない日本語で、誰かと会話しているのを耳にしたことがあり。
どちらが長に気に入られるかは一目瞭然な。
そしてある日、長に「ビール缶あったんだけど、あれおまえ?」と突然。
いやそんなめっそうもねえ、あっしじゃねえっす、と慌てて答えまして。
「じゃあワンだな。朝来たらあったから、深夜のあいつだ」
とあたりをつけたようで。
深夜の休憩時間、
狭い倉庫の床に伸びるようにして寝ているワン氏を思い出したあっし。
そう言われてみればそんなことをする人なのかもしれないけど、
どうも腑に落ちない。
何が腑に落ちなかったって、
その決め付け方でありまして。
何だかどうも、はじめから「中国人はよお」とされているようで。
「あいつら働かねえから」とは、よく飲食店界隈では耳にしましたが。
何となく、その「あいつら」意識が、彼らをより働かなくさせているんじゃないかしらね、と考えた次第でもありんして。
結局そのビールは、韓国人のパクさんの仕業でありんした。
ふうん、と思いながらも、
パクさんはどんな顔して「それ僕ね」と言ったのだろう、
そのとき長はどんな顔をしたのだろう、
そんなことを思いやったまま、
その店からは足が遠のいてしまいました。
あっしはドンブリをふたあつ、こっそり持って帰り、
湯のみを一つ、先輩に差し上げました。
いわゆる偏見ってやつに、はじめて出くわしたんでしょうな。
だからこんなに覚えてるんだ。
13年ほど前のことですわ。
ずず。
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